『愛された犬は来世で風となり あなたの日々を何度も撫でる』(木下龍也)
昨年の秋頃に、先輩から教えていただいた短歌です。
今年の元日、愛犬が息を引き取りました。
推定18~19歳。人間で言えば100歳近い年齢です。
大往生でした。
推定、というのは
私が小学校6年生の時に拾った犬だからです。
正確な年齢は分からず、かかりつけの獣医さんから
「おそらく3歳か4歳くらいだろう」と言われたのでした。
忘れもしない15年前の5月。
近所の子供達が「川で人が溺れてる!」と呼びに来て
大慌てで駆けつけると、そこは顔だけを出して
必死に岩につかまっている1匹の犬がいました。
とにかくすぐに引っ張り上げて、大人を呼んで、
近所の人に心当たりがないか聞いてまわって…
警察や保健所にも相談したのですが結局飼い主は見つからず、
届けを出した3ヶ月後、私の誕生日に正式に我が家の一員となりました。
姉達とどんな名前にしようかと考えてはいたものの
「オスだし、川を流れてきたんだから桃太郎以外ないでしょ」という母の一声で
洋犬には似つかわしくない、古風な名前に決定。
すっかりご近所でも有名になり、
「モモ」という愛称で地域のおじちゃん、おばちゃん達にも大変可愛がってもらいました。
性格はいたっておっとりさん。
でも表情豊かで、好物を前にすると瞳が輝く可愛い子でした。
のちに飼ったもう1匹の犬とも、面倒くさがりながら上手く付き合ってくれた、穏やかな子でした。
ふわふわの赤茶色の毛に少しずつ白髪が増え、寝ている時間が長くなり、
耳も目も鼻も ほとんど利かなくなって 2年近く経っていたでしょうか。
それでも食欲は旺盛で、私達がご飯を食べていると わずかな気配を頼りに寄ってくるのです。
テーブルの上のリモコンやお皿を間違えてかじっては、みんなを笑わせてくれました。
そんなモモが昨年のクリスマスから全く食事をとらなくなり、
ほとんどベッドから動かなくなりました。
「いよいよかな」
そう思いました。
その日から隣に布団を敷いて寝て、朝起きて体にふれて、まだ温かいのに安心して…
仕事に行くときは、正直後ろ髪をひかれる思いでした。
でも、モモは必ず待っていてくれました。
そして元日の夜。
いつものように私が仕事から帰ってくるのを待って、モモは静かに息を引き取りました。
年末年始は実家を離れている姉達も帰省していたのですが
2日にはそれぞれ戻ることになっていたので、
その日が家族全員揃う最後の夜だったのです。
私が何度も言っていた「一緒に年越そう」という約束を守り、
誰の後悔も残らないよう、みんながいる日を選んで逝ったモモ。
最後まで家族想いの、賢くて優しい子でした。
あの日から、先輩に教えていただいた短歌が私のお守りになっています。
『愛された犬は来世で風となり あなたの日々を何度も撫でる』
おもちゃや散歩には然程興味はないけど、ドライブが好きで
車に乗ると助手席の窓を開けろと催促してきたこと。
叱られそうな気配を感じると、いつのまにか部屋の隅っこに隠れて
なかなか出てこなかったこと。
「バーン」と鉄砲で撃つ真似をすると、しょうがないなぁとでも言いたげな顔で
ゆーっくり体を倒してくれたこと。
そんなことを思い返しては笑って、泣いて、また笑って
たくさんの思い出に胸を温めてもらっています。
風が吹いたら
「あぁ モモがひなたぼっこしてるんだなぁ」なんて思っている今日この頃です。
この歌がまた、どこかにいる同じ悲しみを抱えた人の お守りになりますように。
長い問わず語りにお付き合いくださりありがとうございました。
OP S元