流れる汗もそのままにランナーになりたい

朝晩の冷え込みが随分と緩み、過ごしやすい季節になってきましたね、とまぁ何の捻りもない書き出しをしてしまいましたが過ごしやすくなったのは実際のところでして、冬の寒さに耐える間、ふわもこあったかルームウェアと形容するには程遠い厚手のダル着の下で着実に柔らかさを増すお腹周りに「自粛生活のせい」なんて言い訳するのもそろそろ見苦しくなってきましたので、TwitterだインスタだTikTokだネトフリだと永遠に見ていられるスマホをタイムロッキングコンテナ(をご存知でしょうか、タイマーをセットして蓋のスイッチを押すと設定した時間まで開かなくなり中の物が取り出せない仕組みで電子機器やらクレジットカードやらお酒やらを入れて各種依存症を克服しようという代物なんですが、開発者はもともと甘い物依存からの脱却を図ってクッキーを入れるために製作した(たぶんアメリカの御仁でしょう)そうで、この商品が話題になってからというもの中国製の類似品が多く出回り安価なものは未来永劫ロックが解除されないトラブルもあると聞いた私は正規品を約1万円で購入、 しかしつい先程Amazonを覗いてみたところタイムセールで半額近くまで値下がりしていたのでテンション下がってます)に放り込み、運動不足の解消並びにじわじわ上昇する体年齢の引き下げを目論んで不審者よろしく夜な夜な近所を駆け回っているS田です。

運動が健康維持に欠かせないことは言わずもがなですが、毎日走ると怪我のリスクが高まるから良くないとか筋肉の回復には一日おきがベストだとか頻繁なエクササイズはメンタルヘルスに弊害が出るだとか、仕事で疲れたから今日はやめておこうとか雲行きが怪しいし雨に濡れて走るのは体を冷やしそうだから今日はやめておこうとか走る前から嫌な予感がするけれどコースで事故に遭うかもしれないから今日はやめておこうとかシンプルに気分が乗らないから今日はやめておこうとか、あらゆる「走らない方がいい理由」を絶えず生産する優秀な脳のお陰で長年に渡り運動の習慣化に失敗しているのですがどうしたものでしょうか。

というのはさておき、ベッドに寝転びながらYouTubeで『ランニングのメリット7選』やら『走ることで得られる嬉しい効果5つ』やらの動画を視聴して前頭葉に論理的アプローチを仕掛けてみたり、はたまた有名スポーツブランドのファッションムービーを見漁って選手や芸能人の肉体美に魅せられキレッキレのモーションに釘付けになりクールなスローガンに心打たれモチベーションを爆上げするというJUST DO IT作戦を敢行(私の場合タイガー・ウッズの台詞で脳内再生されるのですが皆様は誰ですか)したりなんかして、人類初期設定のゴロゴロしたい欲求に辛うじて打ち勝った暁にはランニングウェアに着替えてシューズを履いて玄関のドアをガチャリと開けて、ここにきて引き返して靴を脱いでふわもこルームウェアに着替えるのはもはや面倒くさいし馬鹿げてるから取りあえず軽く走ってみるかとなり、やっとのことで文字通りスタートラインに立てるわけです。

思考で苦しみぬいて一種の悟りを得た末に次のフェーズでは身体的に負荷をかけ機能向上を目指す修行を私は「ランニング」と呼んでいたが実はこれは誤りで正確には「ジョギング」であった…なんていうのは誰もがまるっとお見通しのトリックでしょうが、念の為にとご説明しておくとこれはわが国の外来語有史以来の大問題「“ウォーキング”or“ウオーキング”」と同類のファジーさ溢れる論争かと思いきやそうではなく両者は至って数値的に「時速何キロで走るか」で区別されておりまして、時速6.4キロ以上はランニングそれ未満はジョギングと定義されゆる走りを特技とする私はランナーにあらずジョガーに分類されるということに相成りますが、この「ジョガー」という響きに胸がざわつくジョガーは私だけではないはずで好きでジョガーやってるんじゃないわ!これ以上速く走れんのだわ!と恨み言を言えど己の記録が揺るがぬ証左、ランナーの称号を得た者にのみ許される蛍光色アイテムを取り入れたランニングコーデを夢想しつつ、我々ジョガーを「息が乱れないくらいゆっくりジョギングする人」「風景や季節の変化を感じながら走る楽しみがある」と解説した記事にジリジリと敗北感を味わうのでした。

ここまで息継ぎ少なめで読んでくださった皆様、ありがとうございます。息苦しさとともに、きっと長距離を走り切ったような達成感をお感じになられたことでしょう。この拙文が肺活量増加にも寄与できたのであれば感慨無量、次の機会にはジョガー改めランナー兼ブロガーS田としてお目にかかれることを楽しみにしております。